top of page

大人の愛着障害の修復について

──「克服」ではなく「修復」という考え方 ──

「過去のことは忘れた方がいい」

「いつまでも親のせいにしてはいけない」

「自分が変わらなければならない」

そう思いながらも、どうしても変えられない感情や人との関わり方に苦しんでいる方がいらっしゃいます。

頭では分かっていても、人を信じることができない。

大切な人なのに、なぜか傷つけてしまう。

人とのつながりを求めながら、近づかれると苦しくなる。

同じような人間関係を何度も繰り返してしまう。

そのような自分を、

「克服しなければならない」

と考えることが、かえって自分自身を苦しめることもあるのではないでしょうか。

家族問題相談室では、こうした生きづらさについて、**「克服」ではなく「修復」**という言葉を大切にしています。

なぜ「克服」ではなく「修復」なのか

「克服」という言葉には、困難を乗り越える、問題をなくす、弱さに打ち勝つ、といった意味があります。

もちろん、「克服」という言葉によって前向きになれる方もいらっしゃるでしょう。

しかし、私は自分自身の経験を振り返る中で、過去の傷や生きづらさは、何かに打ち勝つことで消えてなくなるものではないと考えるようになりました。

幼い頃に経験したこと。

家族との関係。

傷ついたこと。

誰にも言えなかったこと。

そして、その中で身につけてきた人との関わり方。

それらは、すべて自分が生きてきた人生の一部です。

過去そのものをなかったことにすることはできません。

だからこそ私は、それまでの自分を否定して乗り越えることよりも、

傷ついた部分を理解し、これからの人生の中で少しずつ整え直していくこと

を大切にしたいと考えています。

その過程を、私は**「修復」**と表現しています。

「修復」は、元どおりに戻ることではありません

壊れたものを修復すると聞くと、「元の状態に戻す」というイメージを持たれるかもしれません。

しかし、心の修復は、過去の自分に戻ることではないと私は考えています。

過去を消すことでもありません。

傷つかなかった自分になることでもありません。

これまで自分がどのように生きてきたのかを知り、

「なぜ、私はこう感じるのだろう」

「なぜ、私はこういう人との関わり方をしてきたのだろう」

と、自分自身を理解していく。

そして、これまで自分を守るために必要だった考え方や行動の中で、今の自分には苦しさを生んでいるものがあれば、これからの生き方に合った形へ少しずつ見直していく。

私は、それも「修復」の一つだと考えています。

自分の生きづらさに気づく

修復に決まった手順があるわけではありません。

人によって、これまで歩んできた人生も、抱えている問題も異なります。

ただ、自分自身の生きづらさに気づくことが、一つのきっかけになることがあります。

「どうして人を信じられないのだろう」

「なぜ人に頼ることができないのだろう」

「どうして大切な人との関係ほど苦しくなるのだろう」

これまで「自分の性格だから」と諦めていたことについて、その背景を振り返ってみる。

そこから、今までとは違った自分自身の見方が生まれることがあります。

安心して話せる関係の中で

自分自身を振り返ることは、ときに苦しさを伴います。

長い間触れないようにしてきた出来事や、言葉にできなかった感情に気づくこともあるからです。

だからこそ、一人ですべてを解決しようとしなくてもよいと私は考えています。

安心して話すことができる。

話したくないことは、無理に話さなくてもよい。

自分の気持ちを否定されずに聴いてもらえる。

すぐに答えを求められるのではなく、一緒に考えてもらえる。

そのような関係の中で、自分の気持ちを少しずつ言葉にすることが、自分自身を理解する助けになる場合があります。

家族、友人、パートナー、支援者、医療者、カウンセラーなど、安心できる関係のあり方も一人ひとり異なります。

大切なのは、特定の誰かを「心に拠り所」にしなければならないと考えることではなく、
自分にとって安心できる人や場所、関係を少しずつ見つけていくことだと考えています。

医療とカウンセリング

心の苦しさが強いときには、医療機関による診断や治療が必要な場合があります。

カウンセリングは、医療に代わるものではありません。

必要に応じて医療機関などの専門的な支援を受けながら、カウンセリングでは、現在抱えている悩みや人間関係、これまでの経験について言葉にし、自分自身を理解していくことができます。

私は、医療とカウンセリングのどちらか一方を選ぶのではなく、その方の状態や必要性に応じた支援が大切だと考えています。

「治してもらう」のではなく、一緒に考える

家族問題相談室では、

「あなたは愛着障害です」

と決めつけることも、

「こうすれば修復できます」

と一つの答えを押しつけることもしたくありません。

私自身の経験が、そのまま相談される方に当てはまるとも考えていません。

まず、その方のお話をお聴きする。

どのような家庭で育ち、どのような人間関係を経験し、どのような思いを抱えながら今日まで生きてこられたのか。

そして、現在何に苦しみ、これからどのように生きていきたいと思っているのか。

それを一緒に考えることから始めたいと思っています。

過去を変えるのではなく、これからを生きるために

過去に起きた出来事を変えることはできません。

けれど、その出来事をどのように理解し、これからの人生とどのように付き合っていくのかについては、時間をかけながら考えていくことができます。

「克服しなければならない」

「早く変わらなければならない」

と自分を追い立てるのではなく、

これまで生きてきた自分を理解しながら、これからの自分に必要なものを一つずつ見つけていく。

過去を消すのではなく、過去を抱えながら、これからの生き方を整えていく。

私は、その長い過程を**「大人の愛着障害の修復」**と考えています。

家族問題相談室は、その過程を一人で抱え込まず、ご自身の言葉でゆっくりと考えていただくための場所でありたいと思っています。

bottom of page